「衝動」という難敵

2・衝動と燻り

これまでお話ししてきたのは、依存症ギャンブラーと金銭のしがらみについてです。詳しく説明すると、「金銭に対する感情」が原因でギャンブルに依存したり依存が根深くなったりするということでした。そういったギャンブラーの心理やマインドは、いわば「心の中で燻り続ける金への執着」といってもよいと思います。

ですが依存症ギャンブラーをギャンブルへと駆り立てるものは、それだけではありません。ここまで読んで、「ムラムラとくる、あの感情については、何も書いてないじゃないか!」と思われた方も多いことでしょう。「ムラムラとくる…」つまり、「心の渇き」ともいえる部分です。ストレートに表現するならば、それは「衝動」とも呼べるものです。

例えば、断パチンコを続けている人でも、たまたまパチンコ店の前を通り過ぎようとしたとき、吸い込まれるように店内に入ってしまうことがあります。断を志した人なら経験があると思いますが、衝動でスリップする時というのは瞬間なのです。おそらくですがそういった時、人は心の中で燻り続けている金銭への恨みや憎しみが原因でスリップするのではないと思います。

心の中に存在するのは、「やりたい!」という欲望であり、「少しなら」と考える甘えであり、「勝てれば、いいじゃないか!」と都合良く言い訳するという「堕落」なのです。スリップするときに、「やってしまったら、その先どうなるか?」ちゃんと考えている人などいません。誰もが自らの欲望に押し切られ、再び手を染めてしまうのです。

余談になりますが、私は相談者の方に「パチンコ店の入り口にいる、あなたを止めることはできません」とお話しすることがあります。これはどういったことかというと、衝動に耐えるのは並大抵のことではないということです。もっと簡単にいえば、パチンコ店の前を通りかかったとしても、遊戯できないようあらかじめ対策する必要があるということでもあります。それほどまでに、衝動というものは厄介な存在です。

・衝動対策は必須

衝動といっても、その元になる感情についてはいろいろと種類があるように思います。ここでは先に、衝動の元となる感情について原因別に書いておきます。

  • 欲望:「パチンコやりたいなぁ…」
  • 習慣:「他にやることないし…」
  • 記憶:「そういえば以前、この店で大勝ちしたっけ」
  • 甘え:「まあ、少しくらいならいいよな…」
  • 言い訳:「負けるとは限ってないし、勝てればいいじゃん」

欲望を押さえるのは、大変なことです。欲望の根源には「嗜好」という物が存在し、それを払拭することが極めて困難だからです。きっとあなたも身に覚えがあると思いますが、好きな物を嫌いになるというのはなかなかできないことです。

習慣というものは心と体に染みついているものです。私はこれまで、習慣性依存と思われる依存症ギャンブラーを多く見てきました。習慣性依存の人は、パチンコやスロットなどが生活の一部になっています。だからいざ断を始めても、他にすることが無くてポカンとしたり、行かないと落ち着かなくなってイライラしたりしてしまいます。

依存症ギャンブラーの記憶というものは、その殆どが楽しかったことや良いことで埋め尽くされています。突然そういった記憶が蘇り、ムラムラしてしまうのは良くあることです。そういったことをフラッシュバックと表現する方も居ますが、実際のフラッシュバックはもっと激しく痛みを伴うものだと聞いています。いずれにせよ記憶を消し去るのは難しく、パチンコ店の前まで来てしまった場合、それが衝動に結びつく可能性が高いです。

甘え・言い訳というものは依存症ギャンブラーの常套手段です。依存症ギャンブラーは常にギャンブルするための言い訳と口実を探し続けているため、その場に一番適した言い訳が自然と出てくるといえるでしょう。それらのマインドを修正するというのは、並大抵のことではありません。

このように衝動というものはかなり厄介で、それを防ぐことは難しいです。しかしながら、ちゃんと衝動に備える対策を取っていないと、ギャンブル依存症を克服するのは不可能だといえます。なぜなら、衝動に負けてばかりいては、時間を稼ぐどころではないからです。では、具体的な対策とはどのようなものなのでしょうか? (続く)

奥井 隆
奥井 隆
2 市民団体 ギャンブル依存症克服支援サイトSAGS 代表
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