大阪都構想(いわゆる大阪市廃止にともなう行政改革案)が頓挫した。ところが去る11月11日に松井市長は敗者の弁の舌の根も乾かぬうちに、「大阪市を特別区8つに分割する」と言い出したのである。
「都構想」否決されたばかりだが… 松井市長、今度は「8総合区」提案へ(読売新聞オンライン 11月12日より引用抜粋)
大阪市の松井一郎市長(地域政党・大阪維新の会代表)は11日、市を残したまま区の権限を強める「総合区」の設置条例案を来年2月の市議会に提案する意向を表明した。現在の24行政区を8総合区に再編する内容で、議会で可決すれば全国初の導入となる。松井氏は総合区と並行し、市の広域行政の権限を府に一元化する条例案も準備する方針。
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20201112-OYT1T50078/
この記事によると私の推察通り、どうやら大阪維新は、まだ大阪市の分割とIR導入を諦めていないようだ。私は前回の記事で、大阪維新について「死んだふりするのが上手」と褒めて差し上げたが、もはやここまで来ると勝つまでジャンケンを通り越してゾンビである。
なぜ大阪維新は、こうも大阪市の分割にこだわるのだろうか? これは、けっこう誰でも感じていることだと思うので、今日はこのことについて書いてみたい。
大阪維新の唯一の成長戦略は、「IR(特定複合観光施設)」だけ
ここで今一度書かせていただきたいが、大阪維新が持つ経済政策というのはIRだけといって良い。これまでいろいろな物を切り捨てたり統合したり売却したりして、スリム化を自賛してきた大阪維新だが、実のところ具体的な経済政策・成長戦略として打ち出したものはIRと大阪万博だけといって良い。
大阪万博はそもそも「誘致が成功したら」が大前提だから、これもまたお粗末な目論見であり一つの「賭け」に過ぎない。どうひいき目に見ても、ちゃんとした経済政策とは言えないだろう。
先のEXPO70大阪万博が成功した実績はあるにせよ、万博など誘致の成功が大前提である。「誘致に成功したから我々の手柄だ、立派な成長戦略だ」というのは、詭弁だ。
しかも今回誘致に成功した万博に対しても、大阪維新はIRのインバウンドにあぐらをかき委ねようという魂胆である。つまり何としても、IRを実現したいわけだ。
IR建設は、4つの「たら」が大前提
IRといえば、統合型リゾート施設というなんだかややこしいネーミングだが、実のところはカジノというバクチの不夜城によって成り立つハコモノといってもよい。
昨今のコロナ禍を模していうならば、「365日、来る日も来る日も24時間、密閉した空間の中で、ゼニに血眼の博徒達が集う閉鎖空間」である。これはもうパチンコ店の密どころでは無い。しかも3密ばかりか、「堕落 不幸 借金 破産 射幸 嫉み 妬み 恨み」など数々の因果や業までが蠢く(うごめく)不健全な施設といってよい。
冷静になって考えてみていただきたい。経済政策や成長戦略などは、常日頃から行っているべきことであり、何らかの偶然や仮定を前提とするべきものではない。つまり簡単にいえば、地元を高め、底上げしていけば良いのであって、経済政策にバクチなど必要ない。
そういったことを踏まえればIRに関しては、次のような言い方が適切だろう。ここはわかりやすいように、箇条書きにしておきたい。
5年から7年先に開業し、そしてその時点で…、
・もしも観光客が、ドッサリとやって来てくれたら
・もしもその時点でカジノが人気娯楽に返り咲いていたら
・もしも開業後に、他のライバルカジノに勝っていけたら
・もしもカジノ客の大半がオンラインカジノに吸い寄せられていなかったら
7,000億円とも1兆円とも言われている我々の血税を注ぎ込んで、これら4つの「たら」に賭けなければならない。それら4つの賭け全てに勝てた場合のみ、「ひょっとしたら観光業としてやっていけるかも」というのが関の山だろう。
大阪維新の目的はIR実現のみといって良い
勿論、IR建設後に誘致先の自治体が恒久的にインバウンドを得られる保証などない。なぜなら誘致先の自治体には、エーゲ海やモルディブのような自然もないしローマやパリといった文化や史跡・観光の目玉も無いからである。…としたら
後々そこに残るのは、博徒だけを受け入れる不夜城だけだ。失敗したらどうなるのか? 結果は明白である。かつての3セクの数10倍ともいえる大きく厄介なお荷物が、大阪に残るだけだ。
それが原因で、大阪が財政破綻団体の憂き目に遭う可能性だって有る。そういえば少し前に、我々府民の虎の子を売り飛ばし、福祉と文化を切り崩し「大阪を黒字にした」とうそぶいた人も居た。この人もまた、大阪維新の先駆者である。
都市を切り崩し住民サービスを低下させ、市民の不安と引換にIRやカジノという巨大なお荷物を造ろうと画策しているのが大阪維新なのである。今回の松井市長の発言は、何とかIRを実現するための寝技なのでは無いか?
かつて新世界のじゃんじゃん町に隣接する地下鉄動物園前駅の真ん前に、フェスティバルゲートという遊園地があった。これも3セクとして経営破綻したわけだが、この地はその後マルハンに「日韓融和のための施設を建設する」という名目で売却され、今ここには「マルハン」という巨大なパチンコ店が建っている。
先日は菅首相がIRについて、「IRは観光政策を進める上で必要不可欠。政府としてIRを進めていこうと考えている」と述べた。大阪維新と懇意である菅総理のこういった発言と大阪維新の動きを見比べると、やはり大阪にIRというのは既に暗黙の了解になっている気さえする。
生活保護受給者は パチンコで生活費を使い果たす
大阪府・市が抱える大きな問題の一つに、生活保護受給者の多さがある。保護費の支給日には、西成区役所を取り巻くように生活保護受給者が列を作る。西成区では、住民のおよそ4人に1人が生活保護受給者というデータさえ有る。
メディアではなかなか報道されないが、実のところ生活保護受給者がパチンコ店で生活費を使い果たし破綻するケースが後を絶たない。
私はかつて西成区を含む地域で営業職だったが、パチンコ店で文無しになった人たちは、闇市での薬販売や売人など違法な手段で生活費を得るしか無いのである。
こういった地にこれ以上のバクチが必要かどうかは、言うまでも無いだろう。おそらくだが福祉の切り捨てやサービスの民営化などよりも、生活保護受給者がバクチで生活費を失わない工夫をする方が先決なのである。
次の戦いのテーマは、大阪市の分割や存続では無い。バクチの主催者とそれに荷担する人たちから、大阪を守る戦いなのだ。(奥井 隆)