ギャンブルの交友が実を結ばない理由
今日は少し脱線した話になる。SAGSのテキストの中でも書いているが、ボクは賭博場での交友をあまり信用していない。それにはいくつかの理由があるが、まず第一にコチラが素性と本名を明かしたくなければ相手も同じ事を考えているということだ。
ましてや賭博場というのは、とにかくゼニを奪い合い、自分のことしか考えない人たちの世界だ。だから、そこに居る人物が信用できないというのは至極当然のことである。
ここでもう一つ書くならば、パチ屋内での交友が実を結ばないのは、そこで長年培った人間関係をも破壊するほど、強烈な裏切りと欺きがしばしば起きるからでもある。例えばストック全盛だった頃のスロットは、他人を食いものにして立ち回らなければ勝てなかった。人を信じろと言う方がおかしいだろう。
情けない話だがボクは、友人にカマを掘られたことが何度もある。だがそのような情況では、カマを掘る奴が悪いとか裏切ったなどと考えること自体が間違いなのだ。なぜなら、カマを掘らねば勝てないように出来ているマシンが多いからである。そういったマシンに手を染めるならば、逆にカマを掘られる側に落ち度がある。パチ屋とは、そういった「場所」なのである。
それとついでにいえば…、例えばもしあなたが住んでいるマンションの管理費や積立金の会計をすることになった人が、血眼でパチ屋通いしているとわかったら、あなたはどう思うだろう? だってマンションの積立金なんて百万単位で貯まっているし、持ち逃げされて警察に届けたとしても殆どの場合お金は戻ってこないんだよ。
そんなことを考え出したら、おそらく不安になって夜も眠れない人が多いのではないかな? 自治会費の使い込み、マンション管理費の使い込み、横領、会社の金の流用…。ギャンブルへの依存が原因の金銭トラブルは、驚くほど多いんだ。
実際にボク自身、そういった信用できない人との交友を何度か経験しているし、酷い目に遭った人を何人も知っている。
ボクの経験
まず、ボクの経験から話そう。
今から25年くらい前のことだ。ボクはブラボーキングダムという平和のフイーバー機の攻略で、あちこちのパチ屋を転々としたことがあった。あの機械は単発回しと保留玉の消化だけで、永遠に確率16分の1で連チャンさせることができた。まあ、そんな話は今関係ないのだが。
そんな頃、とあるパチ屋で仲良くなった人が居た。彼は、50歳前後のちゃんとした身なりの紳士だったが、「お兄さん、エエ度胸してるやないか!」と話しかけられ、ボクはその人と意気投合した。
あの頃のボクは30代だったから、世間のことをあまりよく知りはしなかった。有る意味、怖いもの知らずの若造といったところだった。
だが彼は物知りだったし、話すことに筋道が通っていたし、人情味の有る人だった。当時のボクがその自称不動産会社のオーナーに尊敬の念を抱いたのは、今考えてみても決して不思議なことではない。
大勝ちした或る日のこと、ボクは彼と飲みに行くことになった。1件目は東大阪の高級すし店で飲んでますます話が弾み、2次会に行くことになった。そのすし屋での支払いはボクが済ませた。
ボクが勘定を済ませると、その人が言った。
「次に行く店は、ワシが案内するで! 兄ちゃん! そこの勘定はワシに任せろや!」
その時のボクは勝っていたし、すし屋の支払いをワリカンにする気など毛頭なかったのである。
その後彼の言葉にしたがって、彼の行きつけの店にタクシーで向かった。すし屋のあった東大阪から上本町までタクシーを飛ばし、彼の指示で繁華街の少し外れでタクシーを止めた。タクシーを止めると、彼は降りながらこう言った。
「ちょっと、店混んでるかどうか、見てくるわ!」
食い逃げ・乗り逃げ
大方あなたも予想していただろうが、彼は帰って来なかった。つまり『食い逃げ・乗り逃げ』されたってワケだ。でも、ボクはここであなたにお聞きしたい! もしあなたがあの時のボクの立場だったら、一体どうするだろうか? おそらく、ボクと同じようにまんまと騙されたような気がする。
それはさておき、話を続けよう。
タクシーの中でタバコをふかしながら、ボクは悠々と彼を待ち続けた。でも、10分経っても彼は帰ってこない…。さすがに20分経った頃、ボクも慌てだした。タクシーの運転手さんが、ボソッとボクに言った。
「お客さん、大丈夫ですか…?」
「えっ! 何が!?」
「お客さん…、多分あの人、帰ってきまへんで! 元々、お知り合いでしたんか?」
「いいえ…」
「今日、どっかで知り合いはったんですか?」
「いやぁ、東大阪のパチンコ屋で仲良うなったんですわ」
「そら、アカンわ…」
運転手さんにそういわれて、僕は青くなった。今までの酔いが、どんどんと醒めていくのがわかった。彼に話を聞くと、そういったことはちょくちょくあるのだという。もっとも、被害に遭う多くの人は鼻の下の長いオッサンで、カマすのはそのオッサンをカモった女が殆どだということだった。
テレクラなどで男をキャッチして飲み食いをとことんせびり、男が「やれやれ次はホテルへ…」などと考えて一緒にタクシーに乗り込むと、女が突然こう言うのだそうだ。
「ごめんなさい…、今朝出したクリーニングが出来ているのよ! すぐそこなのよ。ちょっと、お店に取りに行ってきてもいい?」
勿論、男にこのことを拒むことなどできず。女は適当な場所にタクシーを止めて人ごみに消え、あとはドロンということらしい。でも、その話を運転手さんから聞かされても、ボクは心の中の僅かな望みを捨てきれずにいた。
安い授業料
さすがにタクシーの運転手さんも、ショボくれているボクを気の毒に思ったのだろう。こう言って慰めてくれた。
「お客さん、まだお金とか貸してないだけエエでっせ! まあ、授業料やと思うておくことですなぁ。」
結局ボクはそこで30分以上待たされ、そのせいで終電も間に合わなくなってしまった。そして家までそのタクシーに乗って帰らざるを得なかった。すし屋の支払いが1万5千円、タクシーの運賃1万5千円、合わせて3万円くらいの支払いだった。
あの時、その3万円が惜しいとは思わなかった。毎日攻略でジャカスカ勝っていたことも、その理由だったのだろう。でも、ボクは本当にガッカリしてしまった。特に自分よりも年配の紳士に騙されるということは、とてつもなく悲しいことだった。
「大人って、信用できないもんだな」そう思った。あの時のボクはパチに狂ってはいたが、自分に信頼を寄せてくれる若者を、平然と裏切る大人が許せなかったのである。
そんなことがあってから、ボクはパチ屋で知り合った人物を徐々に信用しなくなった。恥ずかしいが今回の話以外にも、何度か痛い目に遭っている。
でも、ボクなんかまだ食い逃げの乗り逃げだけで済んでいる。このケースなど、まだ安い授業料かもしれない。だって、もっと酷い目に遭った人がいるんだよ。
次回に、その話をしようと思う。
奥井 隆(タカビー)