第2章 ギャンブル依存症の克服とは

2・なぜ「克服」なのか?

さてここまでお読みになられて、疑問に感じられた方もいらっしゃると思いますが、そもそも「ギャンブル依存症の克服」とはどういったものなのでしょう? 「克服」の意味を広辞苑で調べてみると、「努力して困難に打ち勝つこと」「病気や苦難を乗り越えること」とあります。

類似した言葉の中には「回復」や「快復」というものがあります。同様にこれらの言葉を辞書で調べてみると、次のようにありました。

  • 回復:悪くなった物などが元通りになること
  • 快復:病気や症状などが治ること

医学的に依存という病は一生完治しないといわれています。ですから、元通りになることなどなく、また治ることもないという見地から、SAGSでは「克服」という言葉を主に用いています。しかも克服という言葉の中には、「自分自身で頑張る」という意味が込められていますので、依存症ギャンブラーの心構えとして最もふさわしい言葉ではないかと私は考えています。尚、余談ですが、同じような言葉でも「克復」は快復・回復と同じように、「元の状態に戻す」ということですので、お気をつけください。

それでは、何がどうなれば克服なのでしょうか? 何をどのように頑張れば、克服できるのでしょうか? ここに居られるあなたも、きっとその答えを知りたいと思われていることでしょう。この章ではあなたに、我々SAGSが考える「克服」について、お話ししてみたいと思います。

・克服とは諦め続けるということ

不謹慎な話だと思われるかもしれませんが、この私は今でもしょっちゅうパチンコやスロットの夢を見ます。自覚していますが、10年を超える断日数を経験しても、心の奥底ではそれらの遊戯が好きなのです。ですが私自身、既にギャンブル依存症は克服できたと思っています。なぜなら日常的に行きたいという衝動に駆られることもありませんし、どのような誘惑・ストレスが訪れても行かないという自信があるからです。つまり私の場合、いまだにパチンコとスロットが大好きであるにもかかわらず、それらへの興味が無くなり、また行きたい衝動からも解放されているのです。

私はこれまで、克服された方々に対し一つの質問をし続けてきました。質問させていただいたのは、全員断された期間が3年以上の方々です。質問の内容は「今でも パチンコ・スロットが好きですか?」というものです。人により様々なのですが、「憎い 悔しい 無くなればよいと思う」という感情と共に、殆どの方が「今でも好きだ」と答えられます。ですが同時にそういった方々は、「もう二度と することはない」ともおっしゃっています。そのような状況を見ても、ギャンブルが好きか嫌いかは克服するための必須要素ではないように感じます

確かに依存者の多くは、好きだからやめられない人達です。ですが中には、嫌いであるにもかかわらずやめることができない人もいます。そしてもう一ついうならば、好きでないにもかかわらず依存している人の方が、大きな問題を抱えていることが多いように感じられます。掲示板上でも相談メールでもちょくちょく拝見しますが、ギャンブルしたくてしょうがない自分自身を許せない人がいます。そういった人はギャンブルが好きであること自体を罪悪だと感じ、自分を責め続けるのです。

ですが大切なことは、好きなものを嫌いになるということではありません。そもそも好きなものは、どうしょうもないのです。ハンバーグが大好きな子供に向かって、「それは体によくない食べ物です。これからは、嫌いになりなさい!」と言ったところで、結果は見えているでしょう。ではどうすればよいのでしょう?

好きなものを嫌いになるのは、きわめて難しいことです。ですが、諦めるということなら遥かに容易いです。なぜなら我々が日常生活を送るうえで、諦めねばならないことは山ほどあるからです。例えば誰だって、広い家に住み、美味しい料理を食べ、豪華な旅行に行きたいと思うでしょう。ですがそういった願いは、なかなか叶うものではありません。なぜなら、経済状況や時間等、夢を叶える為には乗り越えなければならない問題が多すぎるからです。

だからこそ我々は分に応じた生活をし、欲望を抑えて我慢し続けるのです。そしてどうにもならないことは、諦めざるを得ません。つまりここで重要なのは、「好きでも仕方なく諦める」というスタイルです。

ギャンブル依存症克服への道とは、「我慢」することから始まり「時間を稼ぎ」そして「ギャンブルすることを諦める」までの道のりです。我々の目的である克服とは、「一生諦め続ける」ということに他なりません。そして、これからあなたに知っていただきたいのは、「諦める為の方法」です。そしてそれが唯一、本来のあなた自身を取り戻し豊かな人生を送るための一本道なのです。(続く)

奥井 隆
奥井 隆
2 市民団体 ギャンブル依存症克服支援サイトSAGS 代表
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