本当の自覚と あやしい自覚

2・依存の自覚を段階的に見ると

先に私は、「依存の自覚なくして 克服はあり得ない」と書きました。

では、自覚が無い状況では、全くどうにもならないのでしょうか? 自覚しない依存症ギャンブラーは、救われることなくどん底に落ちるしか術が無いのでしょうか?

この質問に答える前に、一つあなたにお話ししておくことがあります。それは、「ギャンブル依存症の自覚」が、どういった状態を指すのかということです。このことが分かっていないと、ギャンブル依存症克服の入り口に立てたとしても、そこからまた迷い続けることになります。一言で自覚とはいいますが、実際には立場や人により、その「程度(強弱)」が存在します。

  1. 自分自身の行動に疑問を持つようになる:「あれ? 俺、アツくなってるな・・・」
  2. やめないと、まずいなと感じ始める:「俺、ギャンブルするとどうもダメだな~」
  3. やめたいという願望が生まれる:「俺、ギャンブルやめないといけないな」
  4. やめないと問題が解決しないことを知る:「ギャンブルし続けると、問題ばかり起きる!」
  5. ギャンブル依存症という「言葉」と出会う:「えっ! 俺以外にもそんな人居るんだ!」
  6. 自分は依存しているのではないかと、感じ始める:「俺って、ひょっとしたら・・・」
  7. 自らが依存であると確信する:「俺はギャンブルに依存している・・・ 間違いない」
  8. 絶対にやめなければと、心に決める:「ギャンブルやめないと、大変なことになってしまうぞ!」
  9. 依存を克服しようと決心する:「依存を克服するために、ここで頑張るぞ!」
  10. ギャンブルを一生やめる覚悟ができる:「俺は、一生ギャンブルしてはならない人間なんだ・・・」

私はそういった強弱をこのような10段階に分けましたが、勿論理想的なのが10.であることは疑う余地がありません。ですが、残りの9段階が全てだめなのかといえば、決してそうではありません。

ざっくばらんな話、10.の段階まで達してSAGSに参加される方は少ないです、殆どの方は曖昧な決意と手探りの状態で参加して行動され始めます。ですが、そういった方たちでも、ちゃんと克服のレールに乗ることができていますし、どんどんと断日数を伸ばし克服していかれます。なぜでしょうか?

・まずは問題の存在に気付くこと

ご覧になればお分かりのように、これら10段階というのは少なくとも自らの行動に疑問を持っている状態といえます。つまり「自分はギャンブルすることで、何らかの問題を起こしているのでは?」と感じているということです。

ところが今の日本には、10段階の1番目にさえ到達できない人が多いのです。自らの行動に全く疑問を持たない「潜在的依存症ギャンブラー」といえる人たちです。そういった人たちは、金を浪費し、借金を繰り返し、仕事をサボり、家事を手抜きし、子育てを放棄し、家族を犠牲にしていても、それを何ら問題だと感じていないのです。

ギャンブル依存症の認知は、家族に金銭問題が発覚するとともに訪れることが多いです。私は依存症ギャンブラーのご家族からの相談もお受けしていますが、そこで問題となっている依存者と自力でSAGSに辿り着き参加された方とを比べると、ギャンブル依存症に対する意識に顕著な差が見られます。あなたのように「問題に気付き、自ら行動できる」というだけで、実際は大きな進歩だといえるのです。

自らの行動に罪悪感どころか、一切の問題を感じていない依存症ギャンブラーほど厄介な存在はありません。そういった人の家族というのは、本当に悲惨なものです。なぜなら、解決の糸口が全く見られないからです。今ここにいらっしゃるあなたは、少なくとも1.の部分にまでは到達されています。解決の方向を向いて立っておられるといえるでしょう。

では、10段階のうち1から5くらいまでの状況でも自覚と呼ぶことができるのでしょうか? また、そういった段階の人でも、克服への道を進んでいくことができるのでしょうか? これらの質問への答えは、次のようになります。

「確たる自覚が無くても、克服し問題を解決することはできますが、そのためにはいくつか心得ておくべきことがあります」

克服への入り口は、そう狭いものではありません。ただし、少なくとも自身の問題に気付き、何とかしなければならないと感じていなければ、ちゃんとした出口から退場できません。そしてその為には、克服するために何らかの行動を起こす必要があります。

それでは、心得るべきこととは一体何でしょうか? それは本当の意味での自覚を、心に備えるということです。

本当の意味での自覚とは、「一生やらない覚悟が備わり、自分がギャンブルしてはならない理由についても、ちゃんと理解できている」ということです。そしてもう一ついうならば、「今後してはならないこと」を知り、「ギャンブル依存症について、ちゃんとした知識を持っている」必要があるのです。

せっかく2年以上も断を続けたのに、ちょっとしたことがきっかけであっさりとスリップ・再発する方が居らっしゃいます。そういった方のお話を伺うと、たいていの場合依存に対する知識が乏しいです。

このことは別の言い方をするならば、「ちゃんとした自覚が備わっていない限り、いつスリップして再発するか分からない」ということでもあります。ギャンブル依存症を克服し幸せに生きていくためには、そういったリスクの芽を摘み取ってしまう必要があるのです。

それでは、スリップを食い止め再発しないために必要な「ちゃんとした自覚」は、どのようにすれば得られるのでしょうか?(続く)

奥井 隆
奥井 隆
2 市民団体 ギャンブル依存症克服支援サイトSAGS 代表
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