保険屋時代 最終回

2悔しさゆえに堕ちるギャンブラーたち

パチンコして負けると悔しい。きっと誰でも経験あることだろう。ところがギャンブルというものは、こういった人間の心理を上手く利用して作られている。悔しければ悔しいほど、深みにはまっていく仕組みが存在するのである。

ボクは今までに、この悔しさの亡霊に取りつかれて身を滅ぼした人を何人か知っている。今考えると、そういった人たちは皆、パチンコやスロットに依存していたとわかる。

涙を浮かべてハンドルを握り締めながら、左手で台を叩き続ける老婆がいた。台のガラスをたたき割って店を飛び出し、店員に取り押さえられて喚く女もいた。

毎日来る廃品回収のオヤジはパルサーで天井までハマり、マシンを蹴飛ばして完全に壊してしまった。修理はきかず、新品の購入費を支払わされたらしい。

そういった人たちに共通の特徴が一つある。それは、泣こうが喚こうが台を叩こうが、しばらくすると平然と台の前に座っているということである。

負けの悔しさはストッパーになりはしない。そして取り戻したいという憎悪の火が燃え上がれば燃え上がるほど深みにはまり、ギャンブラーたちは破滅していくのである。

だが負けるとひとことで言っても、いろいろな負け方がある。そもそもギャンブルに勝ち負けなどないというのがボクの考えだが、それはさておき、「誰かにカマ掘られて負けた時ほど 悔しいことはない」というのがホンネだろう。

あるホステスの破滅

あの頃、ボクが通っていた店には出勤前のホステスさんたちが何人か居た。出勤までの暇つぶしでパチ屋に居るホステスさんは、世間にはかなり多いことだろう。まあ彼女らにしてみれば憂さ晴らし程度なのだが、中にはとことんハマってしまう子がいるのである。あの店の常連だった「リカ」もその一人だった。

リカは普段真面目な子で、お店での評判も決して悪くなかった。パチ屋で顔なじみの客を店に連れてくるという、一石二鳥の釣りも得意だった。お店も商売熱心なリカを、ありがたく思っていたようである。

実はこのボクも、リカに釣られたくちである。人情味のあるママを気に入ったこともあって、リカがいるお店には何度も通ったものである。

ところが、このリカには大きな問題があった。今考えてみれば当時彼女はかなり酷いパチンコ依存で、既にどうしようもなくなっていたのだと思う。

普段大人しく打っているときは別段問題ない。ただ単に他の客同様、ヤラれているだけのことである。ところが、時として彼女の悪い癖が出る。それはカマを掘られた時だ。

一発台好きの彼女は、いつもタンブラーかホットラインとかいう機械ばかり打っていた。だが、彼女が見切りをつけた台に他の客が座ると、突然態度がおかしくなるのである。

急にソワソワしだし、あたりをキョロキョロ見回し始める。そして自分が座っていた台の方を、何度も何度もチラ見するのである。

何度か彼女から話を聞いたことがあるが、自分の座っていた台をカマ掘りされると、はらわたが煮えくり返るくらいムカつくらしい。カマ掘りされると、彼女は別人のようになった。

そんなときの彼女は、自分が打った台全てにライターを置いていく。その理由はただ一つ。他の客にカマ掘りされないためである。

そうなると、捨てた台が気になって気になって仕方がなくなる。出勤の時間も頭の中からぶっ飛び、それらの台を回り延々と金を使い続けるのである。

ところがそんな彼女も、ある日を境にプツリとそのホールに来なくなってしまった。しばらくしてリカが勤めていたお店に行く機会があったのでママに聞いてみると、次のようなことだった。

「リカちゃんね 給料前借して 服やバッグ全部質入れしてね… サラ金から追いかけられまくって どこかに逃げたらしいわ いい子やったんやけどねぇ」ママはため息をつきながら、ボクにそう話した。

その後風の便りで、リカが隣町のパチ屋に居たという話を聞いたが、それがリカの噂を聞いた最後だった。

パチンコへの依存は、善良な人物の人格を落とし、人相さえも変えてしまう。失踪する直前のリカがそうだった。眉間に縦の皺が入り始めていたし、「あの真面目なリカが金目当てで…」という噂さえ聞いた。

繰り返すが、パチンコへの恨みも金への執着も、全て破滅するスピードを速めるだけなのである。難しいことだが、そういったことは時間をかけて忘れ去るより方法がないのだろう。

今回で、保険屋時代シリーズは終了です。また機会がありましたら、経験談などを寄せたいと思います。

奥井 隆(タカビー)