保険屋時代 その9

2パチ屋で誰かを呼ぶとき

パチ屋の中で誰かを呼ぶとき、幅を利かせているのがいわゆる「代名詞」である。つまり、「オニイサン オネエサン おっちゃん おばちゃん」などといった言葉である。

それはなぜか? 簡単な話だ。殆どの人が知り合いの名前と素性など知らないのである。というか正確には、「知りたくないし 知られたくもない」わけだ。

ボクも経験あるが、人間というものは名前で呼ばないうち呼ばれないうちは、本当の付き合いが出来ていない。つまり、自分は相手のことを信用していないし、相手だって自分のことを信用していない、というわけである。

こういったことは、きっとあなたも1回や2回は経験されていることだろう。

賭場でのルール

実はこういったハナシは、パチ屋以外の世界でも存在する。特筆すべきなのが男女の世界である。

心を許せない男女はお互い名乗ろうとしない。このことは、それなりの遊びを経験した人であれば知っているはずだ。

だが男女以外の世界で、そういったルールが存在する場所がいくつかある。一つは酒場である。「酒を帯びれば、誰の言うことも本気にしてはならない」というのが本音というか、酒場でのルールであろう。

知り合いのちょっと可愛いママが、「あたし、お酒飲んだお客さんから、何度『女房と別れるから、一緒になろう!』と口説かれたかわからへん。本気にしてたら、今頃エラい目に遭ってるわ」と笑い転げていたことを思い出す。

さて、ここで話を博打のことに戻そう。

バクチは現金前払い。その原則は今も昔も変わらない。それは最低限のルールなのである。その理由としては、「そもそもバクチを打つ輩など信用できない」ということもあるだろうけれど、「勝負が終わった後は 負けを支払う気が失せる」ということに起因しているのではないだろうか。

冷静に考えればわかるが、負けた後に借りたお金を返す気など失せていて当然である。だからこそ、賭博場でのルールは、いつも「現金の前払い」なのだ。そしてもう一つ。博徒に金を貸すのは絶対のタブーなのである。

これは、貸す相手がギャンブルに依存しているとかパチンコに依存しているからとか、いう以前の問題だ。

踏み倒しのK

ところがどっこい、そんなことはお構いなしでだれかれ構わず金をせびり借りまくる輩がいる。ボクが通っていた店では、Kがそうだった。

突然、常連が呼び止められ喫茶店に連れて行かれる。そしてそこで彼が話すのは、こういった内容だ。

「なあ、悪いけど5万円ばかり貸してくれや。今ワシ懸命に234番追ってるんや。吹いたら返すから、なんとか頼むわ」234番というのは、フィーバー機である。しかも、そう回りもせず鳴かず飛ばずの台である。

そういった台に勝負する金を、平然と他人に貸せというのがこういった輩の常だった。そして貸さなければ凄んだり嫌がらせをしたりするのである。

その筋に少しばかりつながりがあるというのが、Kの強みだった。だから彼はそのことをちらつかせ、誰にでも金をせびった。

勿論だが、返す気など全くない。というか、ボクはそれまでに返してもらった人を知らないのである。金を借りた人物とホールで隣通しで座っても、全く意に介さなかった。まるで金借りマシーンである。

そういったドブネズミのような人物が出入りする場所に、ボクは毎日のように通っていた。(続く)